メープルシロップ尿症をご説明します。
たんぱく質に含まれるアミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシン(分岐鎖アミノ酸:BCAA)を代謝する酵素(分枝鎖α-ケト酸脱水素酵素:BCKDH)が欠損しているため、正常に代謝活動ができない遺伝性疾患です。
正常に代謝活動が出来ないことにより、これらのアミノ酸やこれに由来するαケト酸が体内に著しく増加することにより神経を障害し、おう吐、意識障害、けいれん等をおこし、最悪の場合は死に至ります。
食事からの過剰なたんぱく質摂取のほかにも、風邪等の感染症や長時間の空腹によっても、体調が悪化します。
悪化のスピードが速いことも特徴の一つです。
メープルシロップ尿症患者用の特殊ミルクと超低たんぱく食治療を行いながら(一部の患者にはビタミンB1も効果があります)、感染症にできるだけかからないようにするなど厳しく管理していく必要がありますが、適切な食事療法と体調不良時の早期対応を行っていくことで、正常に発育する可能性も十分にあります。
代謝とは?
食べ物等が、体内で利用されることを代謝といいます。
私たちが生きていくための生命活動そのものです。
代謝の過程に一つでも異常があると、からだをうまく作ることや生命を維持するエネルギーを生み出すことが出来なくなってしまうため、とても重要なのです。
必須アミノ酸とは?
たんぱく質はアミノ酸でできています。体のなかで作りだすことができるアミノ酸と、作り出すことができないものがあります。
体のなかで作り出すことができないものを必須アミノ酸といい、食事から補給する必要があります。
必須アミノ酸は一つでも不足すると体をつくることが出来なくなるとても重要な栄養素です。
風邪等の感染症や、長時間の空腹によっても体調が悪化してしまう理由
体調が悪くなると食事やミルクがとれなくなります。
体はエネルギーを維持するため、筋肉など体に蓄えられたたんぱく質を分解して、アミノ酸を取り出し糖を作り出します。この際に、ロイシン・イソロイシン・バリンが代謝できずに増加してしまい、様々な症状が出てきます。
通常の食事療法が十分できていても、急速に状態が悪化してしまいます。体調不良時にはすぐ病院を受診し、点滴や入院などの対応が必要です。
主な発見方法
生まれて4~5日目にかかとから採血しておこなう、新生児マススクリーニング検査※で発見されます。
早期発見、早期治療する事により命が助かる可能性があるため、日本では昭和52年以降、ほぼ全員の新生児に対し実施されています。
新生児マス・スクリーニングで昭和58年~平成26年(32年間)の患者発見数:87名(平成27年現在)現在は、新生児タンデム・マススクリーニング検査
※この検査で発見できない場合もあります。
医療費助成制度のご紹介
病院等でかかる医療費について、一部助成していただける制度のご紹介です。
メープルシロップ尿症に関する医療費を一定限度額の自己負担額で支払うことができます。(負担額は所得により異なります)
指定医からの診断書等が必要となりますが、災害時等の証明にもなりますので、取得されることをお勧めします。
小児慢性特定疾病医療費助成制度
小児慢性特定疾病にかかっている児童等について、健全育成の観点から、患児家庭の医療費の負担軽減 を図るため、その医療費の自己負担分の一部を助成する制度です。
対象年齢:18歳未満(引き続き治療が必要であると認められる場合は、20歳未満)の児童。
小児慢性特定疾病対策の概要(厚生労働省より)
難病医療費助成制度
「難病の患者に対する医療等に関する法律」(平成26年法律第50号)に基づき指定される指定難病について、治療方法の確立等に資するため、難病患者データの収集を効率的に行い治療研究を推進することに加え、効果的な治療方法が確立されるまでの間、長期の療養による医療費の経済的な負担が大きい患者を支援する制度です。
※2015年7月から、メープルシロップ尿症が指定難病の対象となりました。
難病対策(厚生労働省より)
なお、申請等の手続きにつきましては、お住まいの市区町村にお問い合わせください。
名前の由来について
以下は、難病情報センターのHPより抜粋した詳細な内容です。(難病情報センターの抜粋元ページ)
1.概要
メープルシロップ尿症(MSUD)は分枝鎖アミノ酸(BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン)由来の分枝鎖ケト酸(BCKA)の酸化的脱炭酸反応を触媒する分枝鎖ケト酸脱水素酵素(BCKDH)の障害に基づく先天代謝異常症である。遺伝子異常が明らかにされており、常染色体劣性遺伝形式を示す。新生児期発症の急性期では元気がない、哺乳力低下、不機嫌、嘔吐などで発症する。進行すると意識障害、けいれん、呼吸困難、筋緊張低下、後弓反張などが出現し、治療が遅れると死亡するか重篤な神経後遺症をのこす。慢性症状としては発達障害、精神運動発達遅滞、失調症、けいれんなどがみられる。新生児マススクリーニングの対象疾患であり、ほとんどすべての患者はこのスクリーニングによって発見される。わが国での頻度は出生約50万人に1人と考えられている。
2.原因
血中に増加したBCAAおよびBCKAの中枢神経障害と二次的な代謝性アシドーシス、低血糖症による臓器障害が出現する。MSUDの中枢神経障害はロイシンの濃度に相関することが知られており、ロイシンおよびそのアミノ基転移産物であるαケトイソカプロン酸が直接、脳神経細胞の発達抑制、ミエリン合成障害をきたすことが知られている。さらに高濃度のロイシンは他の中性アミノ酸の脳内転送を抑制し、アミノ酸やその由来の神経伝達物質の欠乏をきたすものと考えられている。
3.症状
新生児期発症の急性期では元気がない、哺乳力低下、不機嫌、嘔吐などで発症する。進行すると意識障害、けいれん、呼吸困難、筋緊張低下、後弓反張などが出現し、治療が遅れると死亡するか重篤な神経後遺症をのこす。慢性症状としては発達障害、精神運動発達遅滞、失調症、けいれんなどがみられる。
4.治療法
急性期は適切なカロリー(80kcal/kg以上)と電解質輸液、ビタミン投与(B1反応型もある)、蛋白制限を行う。アシドーシスが強く、アルカリ療法の効果がなければ、血液ろ過透析を行う。慢性期は分枝鎖アミノ酸の制限食が中心となり、特殊ミルクを使用する。
5.予後
わが国のMSUDは新生児マススクリーニングで発見治療されているが、マススクリーニングの対象疾患の中で最も死亡率が高く、神経学的予後も良好とは言えない。欧米の報告でも同じような予後成績であったが、早期に診断、治療する事により、新生児期の初回急性増悪を抑えることができれば良好な経過が期待される。さらに肝臓移植により良好の経過が得られることが判明している。早期発見、早期治療、肝臓移植により予後は良好になることと考えられる。今後我が国においても脳死肝移植が普及することによって、本疾患の予後は改善するものと期待される。